住宅リフォーム事業を中心とした「ワンストップサービス」を提供──株式会社安江工務店 代表取締役社長 安江 博幸
株式会社安江工務店
証券コード1439/JASDAQスタンダード
代表取締役社長
安江 博幸 Hiroyuki Yasue
愛知県を地盤とする安江工務店は大手ハウスメーカーの請負事業から住宅リフォーム事業に転換して売上を伸ばしている。その後、新築住宅事業と不動産流通事業にも進出。この3事業により「住まいのワンストップサービスを提供する」という安江博幸社長に、リフォームにかける思いと、愛知県を地盤とした成長戦略を聞いた。
取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久
リフォーム専念を決断した年に社長就任が決まる
――1999年に創業事業である新築住宅の請負事業から住宅リフォーム事業へ転換していますね。
安江 当社は新築住宅および住宅リフォームを目的に1970年に創業し、75年に「株式会社安江工務店」となりました。大手ハウスメーカーと自社新築の請負が主な事業でしたが、私が入社した94年以降、売上高は徐々に下がっていきました。新築の請負工事や工場の改装工事の受注が減り、(単価の低い)営繕の仕事だけが残りました。そうした状況の中で、工務店が生き残っていくためにはどうすればいいのか、入社以来ずっと考えてきて、その答えが「住宅リフォーム」だったのです。国の良質な住宅ストックを活用するという方針にも沿っていました。
99年3月にリフォーム事業に専念するという方針を決めたところ、前社長から「来月から社長やれ」と命じられました。4月に社長に就任し、1年間はリフォーム事業の勉強の年とし、2000年4月から新たに人材を採用し、本格的にリフォーム事業を展開していきました。
――2000年から売上高に占めるリフォームの割合が急速に増えていますが、その理由は高いリピート率にあるそうですね。
安江 00年以降、リフォームの売上高のおよそ50%がOB顧客(リピーター)か、OB顧客から紹介していただいた新規のお客さまです。OB顧客が多いということは、当社の仕事に満足していただいたという証でもあります。
――住宅リフォーム事業では「無添加リフォーム」を前面に打ち出していますが、どのようなものですか。
安江 天井材・壁材・床材に土に還る自然素材を使ったリフォームのことです。一般的な住宅の内装はビニールクロスで覆われていて、いわば「ビニール袋」の中に住んでいるようなもの。天井や壁にビニールクロスを選ぶと、家自体が呼吸できなくなります。私自身も空気環境が良く、健康に害を及ぼさない自然素材を使った家で生活したいという思いから「無添加リフォーム」を開発しました。また火災から命を守るという目的もあります。火災の死亡原因の多くが煙(消防庁調べでは約4割が一酸化炭素中毒死)によるものですが、ビニールクロスに比べて自然素材では有害な煙が発生しにくいという特徴があります。
――新しい取り組みなので、試行錯誤があったのでしょうね。
安江 石灰と麻スサに食品添加物のみを使用した「オリジナル無添加厚塗りしっくい」を開発していた頃の話です。プロトタイプが完成して現場で試したところ、塗り終えたとたんに崩れてしまいました。そういうことが何度かあり、社員からは敬遠されてしまいました。1年後に完成したのですが、社員は信用してくれません。そんな時、知り合いの会社がショールームの壁に使ってくれたのです。そうとは知らない当社の社員が訪問し「いいしっくいですね。どこの製品ですか?」「お宅のだよ」。ようやく社員も納得してくれました。
リフォーム事業を補完する新築事業と不動産事業
――11年から新築住宅事業を再開しています。
安江 2つの理由がありました。まず家造りの川上に立ちたいという思いです。リフォームの仕事が当社に来るのは、新築の会社が何もフォローをしないからです。もし新築の会社がお客さまを囲い込む戦略に転換したら仕事が激減するでしょう。そこで新築から手がけ、その後のリフォームも担当するという流れをつくりたかった。
もう一つは大手ハウスメーカーの請負部門が赤字になったことです。その部門には6名ほどの社員がいたのですが、リフォームの店をつくったら異動してくれるかと聞くと、新築をやりたいというのです。先の私の思いもあったので、請負ではなく自社事業として新築住宅事業を再開することにしました。
――不動産流通事業は10年に始めていますが、他の2事業に比べて伸び率は低いですね。
安江 後発組のため不動産仲介が思ったように伸ばせていません。そこで買い取り再販を積極的に手がけています。住宅リフォーム事業を本格的に伸ばしていくには、中古住宅の流通に関わっている必要があります。例えばリフォーム案件を不動産仲介業者から紹介されると価格イニシアチブが取れません。やはり中古住宅の売買とセットでリフォームの提案ができるようになりたい。この事業は苦しくても続けていくべき事業です。
愛知県のほぼ全域にドミナント出店して拡大をめざす
――今後の成長戦略を教えてください。
安江 地盤の愛知県のほぼ全域にドミナントエリアを拡大する予定です。現在は名古屋市内6店、春日井、一宮、豊田、東浦の3市1町の計10店ですが、今期6月に岡崎市に三河地域の旗艦店を出店します。来期は長久手市などに出店し、5年後にはリフォーム店舗を20店舗に増やします。また新築住宅の2棟目のモデルハウスも17年7月に完成させて、リフォームを主体に新築需要も取り込みます。
――総合リフォーム業界では初めての上場ですね。上場の目的と株主還元について教えてください。
安江 上場の最大の目的は「信頼」です。日々の活動の中で、お客さまから信頼が得られるように心がけていますが、上場することで、その補完ができればいいと考えました。次に人材の獲得です。優れたスタッフと巡り会える機会を増やしたい。将来はM&Aなどで事業を拡大し、業界再編にも寄与したいですね。
株主還元については、17 年12月期の配当性向は25%を目途に、中期的には30%程度に引き上げて安定的な配当をめざします。