「音」と「音楽」のグローバルニッチとして、売上の9割近くを海外市場で稼ぎ出す──株式会社ズーム 代表取締役CEO 飯島 雅宏
株式会社ズーム
証券コード 6694/JASDAQスタンダード
代表取締役CEO
飯島 雅宏 Masahiro Iijima
エレキギターの必需品とも言えるマルチ・エフェクターからハンディ・オーディオ・レコーダー、エレクトロニック・ダンス・ミュージックまで、幅広く「音」と「音楽」に特化した製品を手掛けるズーム。実は、利益の大半を海外で稼ぐグローバルニッチ企業だ。
取材・文/大西 洋平 写真撮影/和田 佳久
世界中の音楽市場で高い評価と実績を誇る
――御社は「音」と「音楽」を専門領域とするグローバルニッチ企業とのことですが、具体的にどのような製品を手掛けているのでしょうか?
飯島 当社は1983年の設立で、1990年に自社製品として初めて開発・販売したのが、エレキギターのサウンドに変化を与えて様々な表現効果をもたらすマルチ・エフェクターです。その後、複数の音源を取り込んで楽曲にするマルチ・トラック・レコーダーや、自然で立体的なサウンドを収録できるハンディ・オーディオ・レコーダー、スマホに接続して立体的なサウンドを収録できるモバイル・デバイス・アクセサリーといった製品を投入してきました。
また、録画しながら立体的なサウンドを録音できるハンディ・ビデオ・レコーダーや、映像製作のプロ向け屋外用レコーダー、PCと音響機器をつなぐオーディオ・インターフェイスも展開し、エレクトロニック・ダンス・ミュージックにも手を広げています。その中で主力はハンディ・オーディオ・レコーダーで、売上高の過半に達しています。既存の製品では困難だった臨場感溢れるサウンドを収録できるのが特徴で、シリーズ全機種でハイレゾ録音が可能です。
国別の売上高構成比では、米国が32%で最もウエートが高く、日本とドイツがそれに次いで12%、イギリスとイタリアが8%となっています。まだ電化が進んでいない国々や紛争地域を除けば、50社以上の販売代理店を通じて、ほぼ全世界的に当社の製品が供給されています。
やはり、最大の市場規模を誇っているのは米国市場で、世界の約4割を占めています。リーマンショックの翌年に当たる2009年以降、米国市場は年率3.2%のペースで拡大基調を遂げており、14年には70億ドルを突破しています。そして、世界全体では150億〜160億ドルの規模に達している模様です。
よほどのことが起きない限り、音楽市場は景気の浮き沈みの影響もさほど受けないのが特徴で、今後も順調に拡大を続けていくものと思われます。しかも、当社が手掛けているのはスマートフォンなどと同じような電子機器なので、技術革新とともに3〜5年のサイクルでユーザーがよりハイスペックなものを求める買い換え需要が見込まれます。
最先端技術と音楽的感性が調和する提案型商品を開発
――御社独自の強みとしては、どういったことが挙げられますか?
飯島 当社は設立以来、一貫してファブレス体制を敷いており、コア技術の開発に専念しているのが第一の強みです。そのうえで、どんなことがあってもぶれない指針として、商品開発5カ条なるルールを頑なに守ってきました。具体的には、①音の初心者でも使えて、②プロレベルの体験ができる、③世界初の要素を盛り込む、④自分で使いたい製品にする、⑤機能と結びついたデザイン――です。
そのうえで、当社にはボイシング(音創り)に、並々ならぬこだわりをもっています。単に高音質であることのみならず、「心地いい」とか、「胸に響く」とか、感情に訴えかけるサウンドに仕上げる技術に関して一日の長があると言えるのです。たとえば、主力商品のH6に標準装備されたXYマイクは2つのマイクが交差する独特の形状で、奥行きや左右の広がりを感じさせるサウンドを収録できます。しかも、マイクを90〜120度の範囲で回転させられるので、幅広いシチュエーションに対応できます。
また、ボイシングにも関係してくることですが、エンジニアとしての知識・経験とアーティスティックな感性を兼ね備えた人材がそろっているのも当社の強みです。最先端のテクノロジーと、音楽的感性とのバランスがとれた提案型商品の開発が可能となってくるわけです。これらが長年にわたって楽器関連製品を手掛けてきた当社の特徴であり、競合他社に対する大きな強みだと言えるでしょう。
――今後については、どのような成長戦略を掲げていますか?
飯島 当社では、①新カテゴリーの創出、②フルラインアップ化、③「アーティスト市場」から「クリエイター市場」へ――という3つの成長戦略を打ち出しています。当社はマルチ・エフェクターを皮切りに、時代とともにマルチ・トラック・レコーダーやハンディ・オーディオ・レコーダーといった新たなカテゴリーの製品を次々に創出してきました。そして、それらとともに既存製品も好調に推移することで、売上も着実に右肩上がりを遂げております。今後も、臨場感溢れるサウンドとの親和性が高いバーチャル・リアリティ(VR)の分野で可能性を模索するなど、新たなカテゴリーの創出を追求してまいります。
2つ目に掲げているのは、それぞれのカテゴリーでフルラインアップ化を進めていくことです。たとえば、すでにハンディ・オーディオ・レコーダーではローエンドのH1からハイエンドのH6まで、搭載機能と価格帯の異なる製品がラインアップ化されています。プロ向けの屋外用レコーダーについても、2016年9月に価格と機能が異なる2つ目の機器を投入しました。こうした取り組みを、他のカテゴリーでも推進します。さらに、これまで当社の製品はもっぱらアーティスト系のユーザーに愛用されてきましたが、最近になって大きな変化がうかがえます。ジャーナリストやカメラマン、映画関係者といったクリエイター系やYouTuber、鉄道ファンなどにもユーザーが拡大しているのです。今後もこうしたお客様の獲得に尽力します。
――株主還元に関してはどうですか?
飯島 すでに発表しました通り、当社は2017年12月期に33 円の配当を実施する方針です。事業拡大に必要となる社会留保を確保したうえで、今後も配当性向30%を目安に安定的な配当のお支払いをめざしてまいります。