熱量の高いファンと企業をつなぐアンバサダー事業で急成長――アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 代表取締役社長 上田 怜史
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社
証券コード 6573/東証マザーズ
代表取締役社長 上田 怜史
Satoshi Ueda
企業から発信されるテレビCMや広告にプラスして、クチコミやレコメンドが消費者の購買選択に影響を与えています。熱量や貢献度の高いファン、アンバサダーが企業から注目されマーケティング活動に導入する事例も増えてきました。これらで急成長したのがアジャイルメディア・ネットワークです。
取材・文/大坪 和博 写真撮影/和田 佳久
創業当時から、個人が輝く消費者の情報発信に着目
―― 上場されるまでの歴史をお聞かせください。
上田 私は大分県の工業高校で建築を学び、大学でも建築学科に進学。大学卒業後は建材商社に就職し、設計事務所や代理店契約している全国の事業者に対する建材の販売を担当していました。私がIT業界に飛び込んだきっかけは、2005年頃からビジネスや生活の中にインターネットが入り込んできたのを目の当たりにしたからです。このまま建築業界にいていいのかという焦りもありました。そこで、Webテクノロジー媒体「C-NET」でネットや広告ビジネスに携わり、その後、モバイルの流れが出てきたことからDeNAへと転職し、モバゲーの広告ビジネスを担当してきました。順風満帆にIT業界への転身を果たしたわけですが、ここで転機が訪れました。当社の創業社長とC-NET時代に同僚だった営業の取締役から「新しいビジネスを一緒に立ち上げないか?」という誘いを受け、その一言がきっかけとなって当社へ入社しました。
アジャイルとは「俊敏な」という意味ですが、スラングで「気の利いた」という意味もあります。当社は「企業と個人をつなぐ」アジャイルメディアというコンセプトで創業しました。創業当時は個人が情報発信できるメディアはブログしかありませんでしたが、その後、フェイスブックやツイッター、インスタグラムといったインターネットサービスがどんどん普及していきました。当社は大手企業向けにこれらのサービスの導入支援をするビジネスをやっていましたが、単発の受注が多く当時は非常に苦労していました。そのなかで2013年の末に「アンバサダープログラム」という、現在の事業の基幹となるコンセプトを考案し当社の主力事業に据えました。その後、2014年3月に3代目となる代表取締役
社長に就任し、本格的に事業の拡大を進めてきました。
アンバサダーという言葉自体は新しいものではなく、マーケティング業界では有名人や著名人をブランドのシンボルとして活用する“大使”という意味で使われていました。一方、当社では“自発的にクチコミし推奨するファン”をアンバサダーと定義しています。アンバサダー事業では、クライアント企業の商品や製品・サービスのファンを対象に企業や商品に触れる機会を提供し、より熱量の高いファンを増やし、ファンの“好き”を加速することで、利用体験の発信・購入の推奨を伝えるクチコミの活性化や購買の促進を支援するサービスを提供しております。わかりやすい事例では、ネスレジャパン様と一緒に取り組ませていただいた「ネスカフェアンバサダー」があります。ネスレ製品を愛するアンバサダーとともに、家庭と職場に笑顔と健康を届けようというコンセプトで、クチコミを通じたプロモーションを展開し、ネスレジャパン様からも高い評価をいただきました。
当社が提供するアンバサダープログラムでは、アンバサダーの登録や分析、連絡に使用する基幹システム「アンバサダープラットフォーム」を基盤に、プログラム運用支援やクチコミを促進するための様々な施策の企画・運営支援等を提供しています。そして、様々な業種業態の企業に対しアンバサダーを通じたマーケティング活動の理解・普及を進めるために、当社が主催するイベントの開催や、マーケティング関連のイベントへの参加等を行っています。
アンバサダープログラムを事業の中核に据えたことで業績も順調に拡大しました。事業の売上はアンバサダープラットフォームの月額利用料およびアンバサダーを活性化するイベント等の実施に応じて発生する提供料です。さらに、会員資産を持つ協業先と当社のクチコミ分析機能やファン活性化のノウハウを活用し、企業のプロモーション活動とクチコミの効果測定を行うアライアンスサービスも順調に拡大しています。
アンバサダー事業を核に新たなビジネスモデルを創造する
―― 今後の御社の成長戦略をお聞かせください。
上田 先進的な企業を中心に導入が進んできたアンバサダープログラムは、アンバサダープラットフォームを導入する企業数が今後も増えていくことで、順調に売上規模が拡大していくと想定しています。今回株式上場で得た資金は、このアンバサダープラットフォームの機能開発へと投入し、提供する価値を増やすことで月額利用料の単価アップを進めていく計画です。このようにしてストック的な意味合いの強い、長期安定的な収益によって拡大を図っていきます。
さらに長期的なスパンで取り組んでいるのが新たな事業へのチャレンジです。アンバサダー事業を中心に当社が培ったコアなテクノロジーや運営ノウハウを1つのパッケージとして様々な企業の商品と組み合わせて、新しい事業やメニューを開発し、DMP(データマネジメントプラットフォーム)事業者との連携も含めたビッグデータの活用を模索していきます。今後は、新たなビジネスモデルを創造することにも積極的にチャレンジしていきます。
―― 株主還元についての考えをお聞かせください。
上田 もちろん、株主への利益還元を経営の最重要課題の1つとしていますが、まずは将来の事業展開と財務体質強化に向けた内部留保、アンバサダープラットフォームの機能開発などへの投資を優先し、直近の配当は行わない方針です。当社では、株主はファン=アンバサダーであると考えています。そのためには、投資家の皆様に当社のアンバサダー事業への理解を深めていただくための努力は惜しみません。そして将来的には、株主還元として安定的な配当を実現していきたいと考えています。