安心して生活できる社会をテクノロジーで支える――トビラシステムズ株式会社 代表取締役社長 明田 篤
トビラシステムズ株式会社
証券コード 4441/東証マザーズ
代表取締役社長 明田 篤
Atsushi Akita
社会問題の一つである特殊詐欺電話などの迷惑電話を事前に防ぐビジネスで成長しているのがトビラシステムズだ。人を守るセキュリティで社会に貢献したいという明田社長に事業内容と同社の強みを聞いた。
取材・文/小椋 康志 写真撮影/和田 佳久
全国各地の警察組織と強固なアライアンス
―― 御社の事業内容についてお聞かせください。
明田 当社の収益の大半を占めているのが、迷惑情報フィルタ事業です。警察や利用者から得られる情報、独自の調査活動などによって約7億件もの膨大なデータを収集し、分析しています。そのデータを独自の抽出技術を用いてデータベース化し、迷惑電話番号リストを作っています。それを各種端末に提供することにより、迷惑電話を自動的にブロックできる仕組みです。こうした迷惑情報フィルタをモバイル、固定電話、ビジネスフォン向けに提供しています。
創業当時は一般的なシステム会社で、開発力は高いものの、何かに特化しているということはありませんでした。ある時、私の祖父が原野商法に引っかかってしまい、それからいろいろな勧誘電話が掛かってくるようになりました。私の母も心配していたので、まずはセキュリティ製品を探してみたのですが、いいものが見つかりませんでした。私もITエンジニアでしたので、それならば自分たちで作ってみようと2010年頃開発に着手したのがきっかけです。
最初は固定電話につけるアタッチメント型端末からのスタートで、電話回線の間にその端末をつけると、データベースと照合し迷惑電話の着信を自動的に拒否するという装置を2011年の6月から販売開始しました。すると、「地元のIT企業が世の中のためになる製品を開発した」ということで、中日新聞の記者の方が大々的に記事にしてくれました。それを見た愛知県警から声が掛かり、当時も特殊詐欺の被害が拡大していたので、お互い協力して被害を抑制できないか話し合いました。愛知県警からは犯罪に使われている電話番号の情報を提供してもらい、当社からは端末を100台配布して名古屋市緑区にて実証実験を行ったのです。それをきっかけに、全国各地の警察組織とも実証実験を行いました。
現在では都道府県警だけでなく、警察庁とも特殊詐欺に関する覚書を締結し、全国各地の迷惑電話情報を取得できる体制が整っています。
99%の検出率で大手通信キャリアも導入
―― 迷惑情報フィルタの性能はいかがでしょうか。
明田 固定電話に掛かってくる電話の約2割、つまり5件に1件が迷惑電話です。当社のデータベースを使えば迷惑電話を約99%検出できますので、ほぼ掛かってこなくなるでしょう。また、迷惑電話ではない番号を誤って検出してしまう誤検知率は、0.2%以下です。こういった高い品質であるため、大手通信キャリア全社に導入していただいています。主に統計や機械学習を用いた独自のアルゴリズムでデータベースを構築していますが、どうしてもわからない部分については1件1件電話をして確認するなどして精度を高めています。
当社がサービスを開始した頃はまだまだデータの精度が低かったため、知財戦略によって参入障壁を高くしようとしていましたが、今となっては毎月数十万ユーザーが増え続けていますので、そこから集まってくる膨大な情報が一番の財産となっています。他社が今からデータを収集しても、当社に追いつくのは事実上不可能と言えるでしょう。したがって、当社の競合と呼べる会社は国内に存在しません。
顧客の獲得は通信事業者が実施
―― 利用者はどのくらいでしょうか?
明田 サービス開始以来、利用者数は堅調に拡大し、現在は約227万人となっています。直近1年間で、約100万ユーザーが増加しました。特にアプリで提供しているモバイル向けのサービスは急速に伸びていて、収益面でも固定電話向けサービスを追い越しています。割合でいうと固定電話が約21万件、残り206万件がモバイルです。
―― 収益率が非常に高い理由は何でしょうか?
明田 当社の迷惑情報フィルタは通信事業者のオプションパックに含まれているため、新規利用者の獲得にかかるプロモーションや利用料金の回収といった一連の営業行為は通信事業者が実施しています。そのため、自社で顧客獲得を行う必要がある企業と比べて、製品開発・品質向上にリソースを集中させることができるのです。実際に全社員の約7割が技術者という組織構成になっていて、それが高い収益性を実現できる理由です。
―― 今後の成長戦略についてお聞かせください。
明田 当社は唯一無二のデータベースを持っていますので、それを活かして顧客を獲得していきます。当社サービスのシェアはまだ非常に小さく、モバイル向け市場では1億7千万件のうち2百万件、 固定電話市場では5千5百万件のうち21万件に過ぎません。ここを確実に伸ばしていくことで収益も安定していきますので、それが短期・中期的目標です。そのうえで中長期的には法人向けサービスであるトビラフォンBizの本格展開や、新しいサービスの開発などを目指していきます。
最近ではショートメールなどを使った迷惑メールの被害が急増しています。現在はソフトバンクのみの提供となっている迷惑メールフィルタ機能を他の通信キャリアに対しても展開していきたいです。そのほか、迷惑広告フィルタなども提供していきます。
―― 株主還元についてお聞かせください。
明田 収益は上がっていますが、まだそれほど財務体質が強いわけではないので、しっかり利益を蓄えながら、当面は自社の成長に活かしていきたいと思います。その後、収益も充分に上がった段階で配当も考えていく方針です。