AI技術を用いたOCRサービスで企業の生産性向上に貢献――AI inside 株式会社 代表取締役社長CEO 渡久地 択
AI inside 株式会社
証券コード 4488/東証マザーズ
代表取締役社長CEO 渡久地 択
Taku Toguchi
AI技術のなかでも画像や動画認識といったコンピュータビジョン分野の製品開発を行い、AI-OCR市場においてシェア1位を誇るのがAI inside だ。高価値なAIによる高品質なユーザ体験の提供を目指す同社の渡久地択社長に、創業の経緯と今後の展望を聞いた。
取材・文/小椋康志 写真撮影/和田佳久
データ入力業務の効率化をAIでサポート
―― 御社の事業内容についてお聞かせください。
渡久地 当社は、文字認識AIとアプリケーションを合わせたAI-OCRサービス「DX Suite」の開発と提供を行っています。基本サービスの「Intelligent OCR」は、手書きや活字、FAXといったあらゆる書類を高精度でデジタルデータ化することができます。また、オプションのアプリケーションとして、複数の種類の書類を自動で仕分けられる「Elastic Sorter」と、請求書やレシートといったレイアウトが無数にある書類を、個別に設定することなくデータ化できる「Multi Form」の2つを備えています。
―― 事業を取り巻く環境はいかがでしょうか。
渡久地 日本の生産年齢人口は減少傾向にあり、30年後には現在の7,340万人から5,340万人まで減少するという推計も出ている一方で、人が行う作業は増加しているという現状があります。当社は創業にあたり、企業が外部委託している業務プロセスに着目し、外部委託先においてITではなく人の手で行っている業務を調査しました。その結果、最も作業負担が大きかったのがデータ入力とその周辺業務でした。この部分を効率化することで世の中にいい影響を与え、大きな貢献ができるのではないかと考えたのがこのビジネスを始めたきっかけです。
大量の書類を速く正確に読み込めるのがAI-OCRの特長です。そのため、サービス開始当初は各種申込書の入力業務を抱える金融法人などのユーザが多かったのですが、最近では業種や企業規模を問わず広まっており、AI-OCR市場において62.5%という高いシェア(※)を獲得しています。契約数も20年3月時点で1,000件以上となり、製品には高い評価をいただいています。
※AI-OCR市場占有率2017年度実績
出典:株式会社富士キメラ総研2019年3月発刊「2019 人工知能ビジネス総調査」
高価値なAIサービスを低価格で広く提供
―― サービスが多くの支持を得ている理由はなんでしょうか。
渡久地 当社のビジネスはAIの実証実験やコンサルティングで高く売るものではなく、高価値なAIを低価格で広く提供することを目的としています。優れたユーザ体験が提供できれば、多くのユーザを獲得でき、AIにより多くのデータを学習させることができます。その結果、AIがより高品質・高価値なものとなり、それを優れたユーザ体験につなげていく。この好循環のサイクルによって、継続的な強化を実現しているのが、当社のビジネスの特長です。
また、DX Suite をオンプレミス環境で利用したいというニーズもあるため、クラウドにアクセスすることなく、ユーザの手元でAI処理ができるハードウェア「AI inside Cube」を自社開発しました。特別なシステムインテグレーションなどを必要とせずに利用できるため、官公庁や地方公共団体などで導入されています。
DX Suite の販売では、直販と大手SI会社や業務支援会社といったパートナーを通じた販売という2つの方法を採用しています。今後はより広いエリアで多くのユーザに使っていただくために、販売パートナーとの戦略を推進し、比率を高めていく方針です。
―― 今後の展望についてお聞かせください。
渡久地 これまでAIを“使う人”を増やしてきましたが、今後はAIを“作る人”も増やしていきたいと考えています。当社はAIの画像・動画認識に加え、機械学習や深層学習、強化学習といったAIの学習基盤領域にも強みを持っているのですが、現在、当社のAIの学習部分を担う基盤である「AI inside Learning Center」を、独自のAIを生成できるサービスとして一部のユーザに使っていただいています。
専門知識がなくても、画面上の簡単な操作でAIの生成・利用ができる仕組みで、具体的事例の一つとして、ゴミ処理場での危険物検知AIの生成が挙げられます。ベルトコンベア上を流れるゴミの中から、プラントの故障や火災の原因となる危険物を検知するというものですが、これをゼロベースから開発するのは非常に大変です。しかし、AI inside Learning Center を利用して、実際に仕分けの作業をしている担当者が操作するだけでAIを生成できていました。
当社がそれぞれの業界に入り込んで開発するのではなく、現場のニーズに合ったAIをユーザ自身が生成でき、これまでのAI開発のような多くのコストも必要ありません。すでに製造業における不良品の検知や不動産業界での最適価格予測などの分野での活用実績もあり、今後はOCR以外の領域でのユーザによるAI生成が広がることで、さらなるユーザの獲得にもつながると考えています。
また、海外への展開も視野に入れています。当社のAIのアルゴリズムに言語の縛りはありませんので、技術的に多言語化が容易です。英語はすでに認識可能なので、その読み取り精度をさらに高めていくつもりです。
OCRはAIを“使う人”を増やすために重要なファーストプロダクトであり、AIを“作る人”を増やしていくプラットフォーム戦略の入口となる製品です。優れたユーザ体験を起点とする好循環サイクルによって世界中の人たちに広く使っていただけるような製品にし、それを国内外のパートナーとともに販売していきたいと思っています。
――調達した資金の使途と株主還元について教えてください。
渡久地 今回の上場で得た資金はAIの学習・推論に使用するサーバーへの設備投資と優秀な人材の獲得に使っていきたいと考えています。当面は成長戦略のために投資をし、契約数の拡大を重視していく方針ですので、長期的に見守っていただけたらありがたく思います。