スマートフォンに特化したメディア事業で急成長──AppBank株式会社 代表取締役社長CEO 宮下 泰明
2012年に創業したAppBankの事業領域は、スマートフォンに特化したメディア事業とストア事業。同社の強みは、幅広いユーザーとの接点を持ち、独特のインフルエンサーとビジネスを生み出す力を持っていること。宮下泰明社長に会社の成り立ちと未来を聞いた。
(取材・文/上條 昌史 写真撮影/キミヒロ)
鎌倉のワンルームから事業をスタート
――創業のきっかけを教えてください。
宮下 iPhone3G(※2008年7月11日発売)が登場した2008年の10月6日、アプリレビューサイト「AppBank.net」を立ち上げたのが始まりです。発売日に購入して手に取った瞬間、「数年後にはパソコンでのインターネットの存在がなくなってしまうだろう」という直感が働きました。「iPhoneの世界で起きていることを伝えたい」、「iPhoneユーザーの集まる場所をつくりたい」──その一心で、サイトを立ち上げたのです。
それがビジネスとして成り立つようになり、会社を設立したのは2012年1月。以後、「メディア事業」と「ストア事業」を中心に、AppBankファンを中心としたAppBank経済圏を形成し、3年後の2015年10月に東証マザーズに上場を果たしました。
――メディア事業の核はなんですか?
宮下 いまや日本最大のiPhoneアプリレビューサイトとなった「AppBank.net」です。サイト開設以来、iPhone市場やApp Storeと毎日にらめっこしながら運営してきました。
開設当初は、まだビジネスになるかどうかもわかりませんでしたが、とにかくiPhoneで起きていることは全部調べて、伝えようとしたのです。当時はまだ有料アプリしか発売されておらず、その有料アプリを購入して「こうだったよ」と記事を書く。“マックスむらい”こと、村井智建(取締役メディア事業部長)と二人で、鎌倉にワンルームの部屋を借り、そこで集中してiPhoneユーザーが見る“場所”をつくりました。
極端に顧客やアプリの作り手に近いメディアをめざしました。専門家の視点ではなく、隣にいる友達が「これ使ったけど面白いよ」というようなスタンスで、アプリやゲームを魅力的に紹介する。同時にメーカーの人たちにも積極的に会いに行き、業界の情報を仕入れ、ゲームづくりの議論をしました。そうしたことを3年ほど一生懸命やって、ビジネスとして成立する手応えを得たのです。
ストア事業で顧客との接点を拡大する
――メディア事業だけではなく、ストア事業を展開している理由は何ですか?
宮下 リアル店舗の良いところは、お客様とフェイス・トゥ・フェイスでコミュニケーションがとれる点です。商品の情報をお伝えするのがメディアの役割だとしたら、ストアはそれを現実に体験していただく場所としての役割を果たしています。お客様のニーズをとらえ、かつ購買意欲をそそるような情報を工夫してお伝えする。時には、主観的に強くアピールしなければ商品の魅力が伝わらないこともあります。
当社では、記事や動画で見た製品を楽しみながら購入できる店づくりをしています。E C サイトでは「AppBank Store」や「パズドラ屋(パズル&ドラゴンズ公式グッズ通販サイト)」を運営、店舗部門では、新宿、渋谷、池袋、八重洲、柏などの首都圏主要駅や、関西圏にも実店舗を構えています。
いまAppBankは、BtoBとBtoCの売上高がほぼ半々で、ベストバランスだと思っています。BtoBの部分が多いと“業界紙”になってしまうし、BtoCが多いと、単なるファンのためのメディアになってしまう。業界全体が熱量を持って盛り上がっている状態が望ましく、そのために企業とユーザー、お互いのことを強烈に伝え合わないといけない。AppBankはそのような役割を果たすメディアでありたいと思っています。
プラットフォームを利用した動画ビジネスも展開!
――収益構造はどうなっていますか?
宮下 メディア事業では、基本的にユーザーに記事を提供し、広告枠をゲームメーカーなどの広告主に販売。ゲーム攻略メディアのアプリ運営による広告収益も獲得しています。ストア事業では、商品販売により収益を上げています。
また、メディア事業ではYouTube やニコニコといったプラットフォームを利用した動画ビジネスも展開しています。YouTube の「マックスむらい」チャンネルもそのひとつです。ゲームプレイ動画を中心として継続的に更新しているもので、チャンネル登録者数は140万人を突破。生放送番組と日記形式の記事との連動で相乗効果を生んでいます。
“マックスむらい”というキャラクターは、パズドラ(2012年に登場したスマートフォン向けの無料アプリ「パズル&ドラゴンズ」)の面白さを、もっと広くユーザーに伝えたいと思って誕生したものです。なんの変哲もないオジさんが、強いモンスターと“降臨戦”を行い、それを実況していく。それがまるで、ボクシングのタイトルマッチのように、ユーザーと共有できるドラマになったため、爆発的な人気を得たのです。
こうして、AppBankの中核メディアは月間1億1,000万以上のページビューを持つまでになり、2015年12月期の連結売上高は3,966百万円、連結営業利益は914百万円となりました。
経営のビジョンは「You are my friend.」
―― 今後の成長戦略を教えてください。
宮下 まずは、オンライン・オフラインで接点をつくりつつ、AppBankならではの体験を生み出していきます。たとえばリアルイベントやレストランの展開など、業態を問わず接点を拡大し、AppBank Store店舗も大型商業施設を中心に地方展開をしていきます。
また顧客層のさらなる拡大のため、海外ゲームメーカーの日本進出時のプロモーションもサポートしていきます。グループの総合力を活かして、オリジナリティのある高付加価値の広告パッケージを組成し、提案していくつもりです。
競争原理の中で進化してきたゲームは、まだまだ進化すると思います。インターネットの楽しみ方も、インターネットビジネスも、大きく変化していこうとしています。そのなかで、商品の魅力の伝え方のありかたは本当にこれでいいのか。常にそのことを自問自答しながら、ユーザーとメーカーから信頼される立ち位置を確立したいと思っています。
当社のビジョンは「You are my friend.」。皆さまの時間と共に成長していく、というもの。今後もユーザー接点を拡大し、これまで築いてきた収益力をベースに、コンプライアンスの強化にも取り組みながら、さらなる成長をめざしていきたいと考えています。