アッパーミドル層向けの戸建て分譲住宅に絞り増収増益を達成──アグレ都市デザイン株式会社 代表取締役社長 大林 竜一
アグレ都市デザイン株式会社
証券コード 3467/JASDAQスタンダード
代表取締役社長
大林 竜一 Ryuichi Ohbayashi
アグレシオ──。「白銀比」という日本人が好む比率を社名に冠したアグレ都市デザインは、パワービルダーや大手デベロッパーが進出してない分野に特化した高品質の土地付き分譲住宅を提供している。大林竜一社長に住宅に対するこだわりと成長戦略を聞いた。
(取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久)
マーケットの半分を占める地場工務店のシェアを狙う
――御社が手がけている土地付き分譲住宅の経営環境について教えてください。
大林 平成26年度の首都圏(1都3県)の分譲戸建着工数は約5万8,000棟です。このうちパワービルダー(低価格の戸建て分譲住宅会社)のシェアが40%、大手デベロッパー・大手ハウスメーカーが12%を占めており、残りの48%が中小のデベロッパーや地場の工務店が分け合っています。当社は48 %(約2万8,000棟)の中でシェアを伸ばしていくことを目指しています。
――戸建分譲事業の他に、主力事業として手がけているのは?
大林 当社の事業は現時点ではBtoCの戸建分譲事業とBtoBの建築請負事業の2本柱です。主力の戸建分譲事業の平成28年3月期実績は154棟(土地分譲19区画を含む)となり、順調に戸数を増やしています。
建築請負事業では、当社の商品企画力を評価してくださったデベロッパーやハウスメーカーから依頼を受けて企画・設計・施工を行います。今回IPOを実施したことで人員増強が可能になり、本格展開できる素地が整いました。建築請負事業ではデベロッパーの土地に建てるために当社のアセットが膨らまないという特徴があり、今後の成長ドライブになると期待しています。
土地やプランにこだわった住宅を責任が明確な自社施工で提供
――御社の強みを教えてください。
大林 当社の戸建分譲住宅の販売価格はブランド(アグレシオ・エグゼ・イルピュアルトの3種類)により、4,000万円~8,000万円超と幅があり、ターゲットとする顧客層は、ミドル~アッパーミドル層としています。この層のお客さまは「こだわり」をお持ちなので、当社の住宅にも注文住宅のようなさまざまなこだわりを盛り込んでいます。いわば分譲住宅のプレタポルテ(高級既製服)といえるでしょう。例えば当社の商品の特徴であるR形状(円形)のダイニングルームは大手が多用する「2×4工法」では施工が困難です。また設計・プレカット・施工の各段階で詳細な検証を必要とする高い施工精度が求められるので、他社には容易に真似できません。
例えば5メートル道路に隣接した10メートル四方の整形地があるとします。このような土地自体は珍しいものではありませんが、隣の家や周辺の建物などの環境まで含めると、世界に一つしか無い土地なのです。そこで当社の設計担当者が中心となって、その地域の特性や住まわれるお客さまのライフスタイルを想定した最良のプランニングを作り、家造りに反映させます。
さらに物件品質を守るために工務店・施工会社に一括発注せずに、当社社員が現場監督として管理や施工チェックを行います。自社施工は経営効率が良いとは言えませんが、商品に責任を持つためには必要なことです。また設計段階から施工段階まで注意深く対応することでアフタークレームをゼロにすることを目標としています。
――土地付き分譲住宅の販売を拡大していくと、土地の在庫が膨れあがり、会社が不動産価格の下落リスクにさらされませんか。
大林 当社が仕入れる都内の城西・多摩地区の住宅用地は、都心のビル用地などに比べて、価格の変動が穏やかです。土地の含み益が大きく増えることもありませんが、積極展開しても価格下落の不安が低いという利点があります。事業の回転も速く、8ヶ月程度でアセットが入れ替わる(分譲住宅が売れる)ため、不良在庫を長期間保有するリスクは低いと考えています。
――昨年9月、商圏拡充を目指すため、第1号支店の「たまプラーザ支店」を開設しました。
大林 たまプラーザ支店は東京と神奈川を結ぶ東急田園都市線、東急東横線、神奈川県内を走る相鉄線沿線のお客さまにアプローチする目的があり、今期以降の業績に反映されると考えます。今後の事業エリアとしては東京の城北エリア、城東エリア、埼玉県南部、千葉県西部を検討しています。
消費税の引き上げにも適切に対処して売上げ増を目指す
――業績は前期比で二ケタの増収増益を達成しましたね。
大林 平成28年3月期は売上高86億5,800万円で前期比42%増、営業利益は5億3,100万円で33.9%増となりました。平成29 年3月期以降はたまプラーザ支店が業績に寄与すると期待しています。
――株主還元については、どうお考えですか。
大林 配当性向は30%をめどとして安定した配当を続けることを目指します。現時点の自己資本比率はけっして高いとはいえませんが、戸建て中心のビジネスモデルは金融機関の支援が受けられないと成り立ちません。金融機関は自己資本比率を重視する傾向がありますので、将来の事業展開に必要な内部留保を確保しつつ、お預かりした資金を効率よく使って収益を上げることに努めます。なお、平成28年3月期は期末配当を当初の予想から利益の上振れ分1株あたり10円増配の90円とさせていただきました。
――今後の展開を教えてください。
大林 住宅は重要な社会資本です。私たちが良質なアッパーミドル層向けの住宅のシェアを伸ばすことが社会資本の充実につながると信じています。将来の展開については、不動産というくくりの中で広げていきたいと考えています。例えば大手がほとんど手がけないコンパクトマンションの分野は、戸建ての小さな現場を管理して一戸一戸販売していく当社のノウハウを生かせるし、有望なマーケットになると見ています。