世界のビッグカンパニーとの協業で自動運転技術など最先端分野に進出──株式会社AWSホールディングス 代表取締役社長(CEO)青木 正之
株式会社AWSホールディングス
証券コード 3937/東証マザーズ
代表取締役社長(CEO)
青木 正之 Masayuki Aoki
主に国内企業から受託したシステム開発をフィリピンの事業拠点で行っているAWSホールディングス。オフショア開発と呼ばれる流行の手法だが、すでに20年を超える実績があり競合他社とは一線を画している。青木正之社長に同社の強みと今後の成長戦略を聞いた。
(取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久)
フィリピンに優秀な技術者集団を確保
――御社はグローバル事業とメディカル事業が2本柱です。それぞれどのような事業内容なのでしょうか。
青木 グローバル事業はフィリピンを主な事業拠点とするオフショアシステム開発(海外に開発等をアウトソースすることで開発コストを削減する手法)、メディカル事業はレセプト(診療報酬明細書)チェック専用ソフト開発および販売です。2016年3月期の売上高29億2,600万円に占める割合は前者が65%、後者が35%です。
グローバル事業ではビジネスアプリケーションおよびシステム開発、組み込みソフトおよびデバイスドライバー開発、製品保証サービスおよびソフトウエアテストサービスという3本柱がバランス良く伸びています。メディカル事業では自社開発のレセプト点検ソフトウエアとオーダー点検ソフトウエアの売上げが約70%を占めています。
――オフショア開発の需要が増えています。その背景と低コストを売り物にしている他社との違いを教えてください。
青木 当社は1993年に日本IBMと東芝テックの合弁会社APTiとしてフィリピンで業務を開始し、モバイルデバイスの品質管理やソフトウエア開発、POS用ミドルウエア開発などを行い、すでに20年以上のオフショアシステム開発の実績があり、強固な顧客基盤を保有しています。さらにフィリピンの優秀な技術者集団を保有している点も強みです。
オフショア開発の需要が増えている背景にはITサービス需要が旺盛となり国内の技術者不足が深刻化していることがあげられますが、当社のビジネスモデルは、低賃金で大量の労働力を雇用して低コストを実現するモデルではありません。フィリピンの理工系専攻新卒者の上位成績者のみを採用しており、採用した人材は自社研修センターで4カ月間の研修を行い、フィリピンの情報処理試験PhilNITSをパスし、さらに日本語で日常会話ができるように日本語能力テストN3レベルまで勉強してもらいます。その上でボードメンバーとの面接を経て、ようやく現場へ出ることができます。現在800名近い技術者が働いていますが、全員日本語ができるため、依頼先の担当者と直接日本語でやり取りができます。この教育ノウハウが当社のコア・コンピタンス(競合他社に真似できない能力)の一つになっています。
高い技術力が生きるR&D型開発ソリューションを提供
――今年8月、世界最大級のソフトウエアテスト認定機関ISTQBから、技術力の高さを認められましたね。
青木 当社は、グローバル事業の中核を担うフィリピン子会社を2社有しておりますが、そのうちの1社Advanced World Systemsがフィリピンで唯一のISTQBのプラチナパートナーに認定されました。優秀なテストエンジニアを多数抱える点、グローバル水準を満たす高い品質保証が評価されました。今後は分析やテスト自動化に代表されるより付加価値の高いスキルを提供し、顧客の開発支援にとどまらず、独自の技術アセットを組み合わせた「R&D(研究開発)型開発ソリューション」を提供していきます。
また昨年は日本IBMのコア・パートナーに認定され、これまで以上に先進技術の習得が可能になりました。このパートナーシップをドライバー(成長の原動力)にして、国内のメガバンクを中心とした金融機関のソリューション開発を推進、さらに私が3Aと呼んでいるAnalytics(分析)、Automation(自動化)、AI(人工知能)の領域を事業ドメイン(事業展開領域)として発展させていきます。
事例を挙げると、PCテスト自動化のノウハウを生かして、画像解析による独自の自動化テスティングツールを大手自動車サプライヤー向けに開発しました。ソフトウエアのテストの市場規模は約4兆円と言われ、車載領域におけるテストは約6割が自動化可能とされております。特に自動運転技術の開発競争は激化しており、今後も高度化する自動車産業向けのテスト自動化に関わるソリューションを提供していきます。また当社が推進する「GO GLOBAL戦略」のもと積極的なプロモーションを行った結果、もう1つのフィリピン子会社Advanced World Solutionsと複数の米国企業との間で新たな契約が成立し、①ドローンを活用した地図測量会社へのソフトウエア開発支援、②医療関連会社におけるモバイル・ソリューション・サービスの提供を行うことになりました。
クラウドを活用してレセプトデータを分析
――その一方で2012年にメディカル事業に進出したのはなぜですか?
青木 高齢化時代を迎えて医療の重要性がより高まっています。その医療をテクノロジーレベルでサポートできるものはないかと模索している時に、医療レセプトシステム最大手のエーアイエスと出会い、2012年12月にグループ化しました。レセプト点検ソフトのマイティーチェッカーは全国約11,000の医療機関に採用されています。すでに開発が終了しているため、ストック型ビジネスとして高い粗利益が期待できます。
また、レセプト点検ソフトでレセプトデータにアクセスできる有利なポジションを生かし、新たなサービスを提供することができます。具体的には、エーアイエスが日本透析医会に所属する全国約200医療機関のレセプトデータを、当社のクラウド型分析サービスにより集計分析を行うレセプト集計分析業務を受託しました。「業務の効率化」に加えて「分析精度の向上」を図ることができます。今後は300を超える医療学会等の市場において、当分析サービスの導入を積極的に展開していきます。