串カツ文化を確立するため関東を中心に串カツ専門店を積極展開──株式会社串カツ田中 代表取締役社長 貫 啓二
株式会社串カツ田中
証券コード 3547/東証マザーズ
代表取締役社長
貫 啓二 Keiji Nuki
東京の住宅街に大阪名物の串カツ専門店「串カツ田中」を出して起死回生に成功、上場を機に「串カツを日本を代表する食文化にする」という壮大な目標に向かって出店を加速させる。貫啓二社長に串カツにかける思いと成長戦略を聞いた。
(取材・文/山本 信幸 写真撮影/和田 佳久)
東京・世田谷の住宅地に出店したことが成功要因
――1998年11月に個人経営のバーからスタートし、2001年2月に大阪・堀江にデザイナーズレストラン、2004年3月に東京・表参道に京料理の店を出店しています。それが「串カツ専門店」に変わった経緯を教えてください。
貫 大きく二つの理由があります。大阪では人気店を作りたくてデザイナーを起用し、その当時のトレンドに合った店を一等地に出店しました。人気店にはなったのですが10年後、20年後、30年後を見据えたとき、この店が続いているとは思えませんでした。そこで東京進出を計画したときに、大阪で副社長(田中洋江氏)が幼少のころから食べていた串カツを、亡父が残した独自レシピで再現して提供することを考えました。ところがレシピを見つけることができず、自分たちで試行錯誤したものの満足できる串カツを完成させることもできず、方針を変えて京懐石の店を出しました。
しかし一等地は家賃が高く、繁盛しても利益を出すことが難しい。料理人のマネジメントも大変でした。
そこへリーマン・ショックが起こって経営が急速に厳しくなり、あと半年で倒産というところまで追い込まれました。その時偶然、レシピが見つかったのです。それは私たちが試行錯誤した串カツとはまったく別のものでした。そこで2008年10月、最後に串カツに挑戦しようと副社長と二人で決めました。
――串カツ田中1号店を東京・世田谷区の住宅街に出店しています。渋谷駅のような大規模商業地域の方が良かったのではないですか。
貫 住宅街に店を構えたのは、資金がなかったからです。14坪の居抜きの店を借り、内装の多くの部分を自分たちでつくりました。2008年12月にオープンした1号店は驚くほどの繁盛店となり、オープン5カ月後には月800万円を売り上げるまでに成長。全国各地の住宅街で成功するためのパッケージモデルを作ることができました。
渋谷駅周辺に出店しても成功したでしょうが、そのノウハウでは山手線では新宿駅や池袋駅周辺のような大規模商業地域でしか通用せず、ドミナント出店(特定地域内に集中させた出店)しても50店舗ほどが限界だったでしょう。しかし、私たちは住宅街が出発点になったために、全国各地の住宅街で通用するパッケージモデルを作ることができて現在、直営・フランチャイズを含めて「串カツ田中」は126店舗(9月20日現在)まで増えました。
「串カツ田中」の串カツを最初に食べてもらいたい
―― 目標を1,000店体制と定めて、急ピッチで出店しています。それはなぜですか。
貫 串カツは素材に串を打ってパン粉つけて揚げるだけの簡単な料理と誤解されているためか、模倣店が数多く出現しました。これが焼き鳥であれば文化として確立されているので、まずい焼き鳥を食べたお客さまは「店のせい」と思うでしょう。しかし、文化が確立されていない串カツでは、店ではなく「串カツという料理がまずい」と思うはずです。出店を急いでいるのは陣取り合戦に勝って、お客さまに最初に「串カツ田中」の串カツを食べていただき「おいしい」ことを知っていただくためです。
陣取り合戦に勝つためにフランチャイズ(FC)制を導入し、直営店との両輪で増やしていく体制です。比率は5対5を目指しているのですが、FC企業の出店意欲が旺盛なのでFC店の数の方が多くなっています。来期も関東圏の未開拓地域を中心に出店していきます。
――人材確保が大変なのでは?
貫 当社の企業理念は「串カツ田中の串カツで、一人でも多くの笑顔を生むことにより、社会貢献する」で、お客さま、スタッフ、そして取引先、株主さまを含めたすべてのステークホルダーの皆様が笑顔になることを目指しています。そのために必要なことはES(従業員満足)であると捉え、「ES→CS(顧客満足)→売上増→待遇改善」というサイクルを大事にしています。ESのために具体的には週休二日制の導入、教育プログラムやキャリアアップ支援の充実を図っています。効果も出ており、入社4年25歳で取締役になったスタッフもいます。
接客マニュアルは紙から動画に変えました。初めて接客を経験するスタッフに文字で元気よく「いらっしゃいませ」と書いても、元気よくの度合いがわかりませんが、動画なら一目瞭然です。また調理マニュアルも店内でしか見られない動画とすることで分かりやすさと同時に情報管理を徹底しました。
将来のお客さまとなる子ども向けサービスを用意
――住宅街のためファミリーの姿も目立ちますね。
貫 そこがうちの強みなのです。メインターゲットを20代から50代の働いている人と定めているので、例えば店内のいすをパイプいすしているのですが、それでもファミリーのお客さまが来てくださいます。その理由は“じゃんけんドリンク”を用意するなどお子さま向けのサービスを充実させているためです。想定客単価は2,400円ですが、お子様の場合1,000円ほどです。それでも大歓迎なのは10年後、20年後、30年後を見据えているからです。串カツが「ソウルフード」になり、今は親と来ている子が成長して自分の家族を連れて来店していただけるとうれしいですね。
――株主還元について教えてください。
貫 会社をしっかり成長させて、着実に企業価値を向上させていくことで株主さまに還元していきたい。株主優待制度は100株以上の保有で一律3,000円相当の「お食事優待券」(1,000円×3枚)をご用意しています。