サステナビリティ
文/片桐 さつき
ついに、この日がやって来た。読者の皆様も新聞などで見てご存じかもしれないが、金融庁が昨年11月7日、サステナビリティ情報の「記載欄」の新設などを含めた「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を取りまとめ、公表した。改正後の規定は、令和5年(2023年)の3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用予定、としている。法定開示書類である有価証券報告書を提出している企業は、サステナビリティ情報を必ず記載しなければならない、ということだ。要はサステナビリティ情報開示の義務化である。2023年は、企業の情報開示において大きな変革を迎えることになると想定される。2020年から掲載しているこの連載も今回で13回目を迎えるが、ここで今一度、そもそも企業にとってのサステナビリティがなぜ投資において重要視されるようになってきているのか、おさらいをしておこうと思う。
企業のサステナビリティを投資判断に加味する、いわゆるESG投資の潮流は我が国において急激に拡大しているが、それは今に始まったことではない。例えば、地球温暖化という社会課題で見てみよう。気温上昇を要因として海面水位が上昇することは随分前から警鐘が鳴らされているし、干ばつの影響で小麦が取れない、大きな山火事が相次ぐ、などのニュースも最近になってからではない。喫緊の課題として、この地球温暖化が止められなかった場合、どんな世界になるだろうか。皆様が投資をしている企業のリスクはそこにある。豪雨による河川の氾濫が想定される地域に主力工場が集中していないか? 猛暑による作物の不作から原材料不足に陥り調達が滞る可能性はないか?
こうした中長期的なリスクを認識するためには想像力が必要だが、これこそが事業の存続に影響を与えるリスクである。問題は、こうした地球温暖化などの環境変化が自社に与える影響を想像し、経営のリスクとして経営層が認識しているかどうかだ。ここでサステナビリティという文脈においてもガバナンスが正常に機能しているのかが問われることになる。もちろん、リスクの裏返しは機会であるから、こうしたリスクをビジネスチャンスと捉えて、猛暑に備えた新商品の開発に注力することも出来るはずだ。皆様の投資先は、地球温暖化に対してどのような対応をしているだろうか。「クールビズをやっています」、「ペットボトルのキャップを集めています」というようなことに終始していたら、それは投資先が中長期的な気候変動リスクを経営のリスクとして認識していない証左でもある。
企業のサステナビリティは、環境や社会に対してより良い影響を与える機会の側面と、事業継続が危ぶまれるようなリスクの側面の2つがある。このような機会やリスクを財務情報から把握することは困難であり、機関投資家はこうしたサステナビリティ情報を財務分析に加えて投資判断をしている。中長期的なリターンを得るためには、企業のサステナビリティ情報が必須だからだ。読者の皆様もご自身の投資先のサステナビリティ情報を是非確認してみていただきたい。
これまでは統合報告書やサステナビリティサイトで情報を得られることをお伝えしていたが、2023年は3月末決算企業の有価証券報告書から、全ての企業のサステナビリティ情報を得ることが出来るようになる。今年は是非ご自身の投資先の情報を有価証券報告書で見ていただき、同業他社と比較をしていただけると良いのではないか。もしサステナビリティに関するリスクを経営のリスクとして認識していないようであれば、それは読者の皆様のリスクになってしまうかもしれない。
※この記事は2023年1月25日発行のジャパニーズ インベスター116号に掲載されたものです。
片桐 さつき
㈱ディスクロージャー&IR総合研究所 取締役
ESG/統合報告研究室 室長
宝印刷㈱において制度開示書類に関する知見を習得後、企業のIR・CSR支援業務を担う。その後ESG/統合報告研究室を立ち上げ、現在は講演及び執筆の他、統合思考を軸としたコーポレートコミュニケーション全般にわたるコンサルティング等を行っている。