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2015-05-13

日本の食と農の国際競争力は!?  ──農産物輸出促進と輸入拒否の理屈

 2015年に入ってからの世界経済は、異例の金融緩和がようやく浸透したためか、株価の上昇トレンドなど、徐々に確かさを増しているようにも見える。当面の焦点は米連邦準備制度理事会(FRB)がいつ利上げするかで、日本も企業業績の回復が本物かを確認することになりそう。

 そんな中で過去数年、日本の輸出ビジネスの中では従来は極めてマイナーな分野でしかなかった食品、そして農林水産物の輸出に注目が集まっている。日本のバブル崩壊後、失われた20年を経て日本人の価値観が少しずつ変容し、サラリーマンや企業、そして若者、女性の間で、農業への関心が高まっているが、日本の農産物・食品にどのぐらいの潜在的な国際競争力があるのだろうか。

農林水産物輸出額、過去最高

 農林水産省が2月に発表した14年の日本の農林水産物・食品の輸出額は前年比6117億円と2年連続で過去最高を更新した。品目別内訳では、加工食品を含めた農産物が13.8%増の3570億円、水産物が同5.4%増の2337億円で、中国・韓国向けの急増が伝えられている林産物が38.5%増の211億円だった。

 一方、国・地域別内訳では、アジア全体は10.6%増の4425億円で、うち金額トップは香港で1343億円、以下、台湾、中国、韓国、タイ、ベトナムと続き、伸び率トップは22.4%増の中国だ。北米は13.3%増の1015億円。欧州連合(EU)は全体で17.1%増の332億円だ。

 日本政府は少子高齢化による国内市場の縮小見通し、農業の成長産業化を目指す方針から、農産物・食品の輸出促進に本腰を入れており、2020年に輸出額を1兆円に増やす目標を掲げている。12年1月には日本貿易振興機構(ジェトロ)に農林水産物・食品輸出促進本部を発足させ、輸出支援に本格的に取り組んでいる。

 過去10年ほどの輸出額の推移をみると、05年の4008億円から07年にいったん5160億円まで増加したものの、その後は低迷し、特に東日本大震災、東京電力福島第1原発事故のあった11年は4511億円に落ち込んだ。原発事故で風評被害だけでなく、多くの国で実際に日本産食品の輸入規制が導入されたことが大きかったが、その後、徐々に規制は緩和され、過去2年の輸出の急回復につながったとも思われる。

海外で高まる和食への評価

 最近の日本の農林水産物・食品に対する世界的な関心の高まりを象徴したのが2013年12月に、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に「和食」の登録が決まったことだ。

 日本人が世界中の料理を現地で食べる経験が増える中で、欧米主要都市でも、いわゆる「なんちゃって」日本食が多いことに驚くことが多い。それでも海外で普通の日本料理店は着実に増えている。

 農林水産省の推計によると、海外でのいわゆる「日本食レストラン」店舗数は06年の2万4000店から13年3月時点の約5万5000店と過去7年で約2.3倍になっている。地域別では13年時点でアジアが2万7000店( 06 年が1万店)と急増しており、次いで北米が1万7000店(同1万4000店)と続くが、ここにきて欧州が5500店(同2500店)と伸びが目立つ。

 昨年、日本の農産物輸出の分野で話題になったのは、欧州連合(EU)が、口蹄疫発生で止まっていた日本産和牛の輸入を5月に許可したことを受けて、早速、全国農業協同組合連合会(JA全農)が6月から和牛のEU向け商業輸出を本格化させたこと。欧米などでこれまで販売されていた和牛は、日本から持ち出された精液によってつくられたオーストラリアや米国、チリなど他国産のものが大半だったことから、ようやく「本物の和牛」を輸出できる環境も整いつつある。

 現在の海外での日本食ブームは日本の大手外食企業が本格進出するアジアが主戦場だが、「美食の国」フランスでの日本食材への評価が興味深い。食品産業センターが05年から導入している、特定地域で生産された原材料を使い、その地の伝統技術で製造されてきた食品を保護・育成する認定制度「本場の本物」が13年にフランス「食の祭典」に名誉招待された時の話を紹介しよう。

 この祭典で「本場の本物」の推進役としてスピーチした二瓶徹氏(現テロワール・アンド・トラディション・ジャパン代表取締役)によると、祭典で行ったかつお節削り体験が多くの来場者の関心を誘ったという。ただ、現在のEUの制度では認定加工施設で製造したものでないとEUに輸出できず、日本産のかつお節は全く流通しておらず、EUで流通しているのはベトナム産などで、本来の日本のだしの味ではないという。そこで、祭典に参加した鹿児島県の枕崎水産加工業協同組合と協議し、フランスのブルターニュ地方にかつお節工場を作ることになったという。

日本の農業と自由貿易

 今、全国の自治体が主にアジア各国で農水産物・食品輸出促進の展示会などのイベントを頻繁に開催している。また、畜産やコメでは輸出促進団体が設置され、活動を始めている。

 日本の農林水産物・食品の輸出額を他の輸出大国と比較してみよう。農水省が引用している少し古い11年の国際データでは、日本の輸出額は51億ドルで、イタリアの434億ドルの約8分の1でしかない。いくらイタリアのワインやパスタが人気とはいえ、日本食材、和食の実力からすれば、日本の農産物・食品の輸出がもっと増えても不思議はない。

 日本の農産物・食品の輸出の取材を始めた当時、「日本の製造業のハイテク技術は優位性はなくなった。実は日本の農業や食産業が最後に残された世界に通じるハイテク産業ではないか」といった言い方をしばしば耳にした。

 日本の農林水産物・食品輸出に奔走してきたある業界関係者は、「13年明けごろから大きく潮目が変わった」と語る。主に価格競争力からの「日本の農産物の輸出なんて」というムードが急速に変わり、日本の農産物・食品が輸出競争力を持ち得るとの認識が広がったということだ。

 こうして、政府や自主独立で頑張る農業生産法人だけでなく、現在、改革を迫られているJA(農協)グループの間ですら、コメを含めた輸出推進ムード一色になっている。しかし、環太平洋経済連携協定(TPP)など自由貿易協定へのJAグループの反対姿勢は変わっていない。コメ輸入を拒否するJAグループがコメを含めた農産物輸出を推進する時の理屈は何なのだろうか。 (了)
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