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ジャパニーズインベスターの記事をネットで配信、投資家ネット

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2015-11-02

投資の前には運動

木田知廣/作 野村俊夫/画

マネーカレッジ代表 木田 知廣
(Profile)
きだ・ともひろ。ラジオ出演や執筆で活躍する他、ストーリーを駆使して面白く投資を学ぶセミナーが人気を博している(サイト上から先着順で申込可能)。http://www.money-college.org

運動が脳をクリアにする


 いきなり私事で恐縮ですが、先日株を売りました。私は分散投資派で、投資先のポートフォリオをわりと厳密に組むタイプです。全資産の何パーセントを株に、何パーセントを債券に……という割合を決めておいて、それを維持することを目標にしています。でも、さすがに最近の経済情勢を見ると、リスク資産の割合を減らした方が良いかと思い、日本株、米国株ともに売ったのです。ただ、ちょっとドキドキでしたけれどね。なにせ過去10年以上ポートフォリオを維持してきたので、それをあえて崩すというのは勇気がいりました。「本当に自分は冷静な判断ができているだろうか?」って。

 そう、投資の大事な判断の時は頭をクリアにさせておきたいものですが、そんな際にコツがあるってご存じでしょうか? それは、運動。実は運動することによって脳のはたらきを活性化させることができるのです。と聞くと、ちょっと意外に思う人もいるかもしれません。学生時代とか、スポーツばっかりやっている人は「脳まで筋肉になっている」なんて言われて、あまり学業優秀なイメージはありませんからね。

 でもこれ、科学的にも証明されているそうです。それが、米国で「ネイパーヴィルの奇跡」と呼ばれた偶然の出来事。舞台は米国イリノイ州、シカゴ郊外の街・ネイパーヴィル。ある高校教師が、「授業の前に生徒に運動させたら、いいことが起こるんじゃないか?」と考えたのがそもそものきっかけです。もっともその「いいこと」は、肥満の防止や健康の増進というフィットネス面だったのですが……。ところが、運動を始めてみると、嬉しい想定外で生徒の成績があれよあれよという間に上がり始めたのです。ついにはTIMSSという世界的な標準テストでも数学で世界6位、そして理科で世界1位を獲得するにいたりました。まさに、運動が脳のはたらきを刺激したという好例でしょう。

 もっとも、筆者自身はこの検証結果がなかったとしても、運動の効果を日々実感しています。たとえば、この連載。毎回ネタが勝負とも言えるものですが、これだけ回数が続くとアイデアにつまる時もあります。そんな時は、机の前でうんうん唸っていてもしょうがなくて、とにかく歩き回ります。そうすると不思議と良いアイデアを思いつくことが多くて、歩くことと脳のはたらきには関連があることを直感的に気付いていました。さあ、いかがでしょう? ここまで聞くと、頭をクリアにするためには運動が大事だということに納得していただけたのではないでしょうか?

いざというときに脳を活性化させる


 いや、それでもまだ信じがたい、という疑り深い方のためには、なぜこのように運動と脳の関係があるかのメカニズムを解説しましょう。それが、この連載のバックボーンである進化心理学……と言いたいところですが、今回はどちらかというと脳生理学。心のはたらきというソフトウェア的な側面よりも、脳そのものがどのように形成されたかというハードウェア的な観点から考えてみたいと思います。

 ただし、進化心理学も脳生理学もその狙いはたった一つに収斂されて、それが「生き延びること」。ご存じのとおり、人間は自然界の中では肉体的弱者です。とくに人類誕生の100万年前の原始時代は、牙や爪を持った猛獣に取り囲まれて生存の危機に直面したこともあったでしょう。でも、今では地球上を席巻するまでになっているのは、進化の過程で脳を発達させることが上手だったから。その生き延びる工夫をみることで、運動と脳のはたらきの秘密を解き明かしたいと思います。

 ただ、生き延びるという観点では、実は脳はやっかいな器官らしいですね。というのは、やたらエネルギー効率が悪いから。一説によると、人間が1日に使うエネルギーのうち20%も脳が使っているといわれています。食糧が豊富な現代ならともかく、かつかつのエネルギー摂取で生き延びなければならない原始時代には、これは厳しかったことでしょう。脳を使うために、体の他の部分にエネルギーを使えなくて飢え死にしてしまっては、本末転倒というものです。

 そこで、脳の発達の過程で考えられた解決策が、普段は脳を「アイドリング状態」にしておくというもの。これによって脳が使うカロリーをできるだけ抑えて、その分を体の他の器官に回すことができます。結果として飢え死にのリスクを減らし、「生き延びること」という最大の目的が達成されました。ただし、「いざ」という時は別ですけれど。たとえば原始時代の「いざ」といえば、危険な猛獣から逃げ出したり、獲物を狩ったりする、「生き延びる」ことに直結した行動です。狩りの時に脳がアイドリングしたままだったら、判断をミスして獲物を逃がしてしまったり、あるいは反撃されて命の危険にさらされてしまいそうですよね。と、ここまで来るとピンと来た人もいるのではないでしょうか?

 そう、普段は脳をアイドリング状態にしてエネルギー消費量を抑えるという戦術を採った人類は、「いざ」という時には脳を活性化するというメカニズムも同時に獲得しました。生命の危機に直面した時には、脳にカロリーを送り込んで判断に間違いがないようにするのです。その時のトリガーになるのが「運動」。獲物から逃げたり狩りをしたりという「運動」がきっかけとなって脳が活性化するのです。これが冒頭に紹介したネイパーヴィルの奇跡の正体。意外に思える「運動すると脳がクリアになる」というのは、人類が太古の時代から養ってきた生存のためのメカニズムに裏打ちされていたのです。

ポイントは有酸素運動


 ということで、読者のみなさまにおかれては株の取引の前にはぜひ運動をしてみて下さい。ちなみに、運動といっても筋トレとかではダメ。有酸素運動がいいそうで、たとえばネイパーヴィルの高校では、最大心拍数の80~90%の強度の運動を10分間したそうです。ただ、これは運動でいうと「キツイ」とか「非常にキツイ」と感じるものだそうで、実際のところはここまででなくても大丈夫。1分間に100歩以上のペースの早足を3分間でも効果があるそうなので、まずは気軽に取り組み始めてはいかがでしょうか。

【参考文献】
吉田たかよし著『仕事力のある人の運動習慣 脳細胞が活発になる二倍速生活』(角川oneテーマ21、2011年)

※本稿は投資に関する基本的な考え方を解説するために作成されたものであり、実際の運用の成功を保証するものではありません。実際の投資は、ご自身の判断と責任において行ってください。
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