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2015-08-06

インバウンド市場は堅調な需要拡大が見込まれる一方、 継続的な政策面の後押しが不可欠

2020年には4兆円!? 拡大するインバウンド市場(1)

近年、円安などを背景に、外国人旅行者数が大きく増加しており、外国人旅行者による日本国内での消費、いわゆる「インバウンド消費」が注目されている。
2014年のインバウンド消費は、前年比43%増の約2兆円と急増。その恩恵もホテルや飲食店、運輸のみならず、都内の百貨店、家電量販店や薬局、テーマパーク、地方の観光地などにも広がりをみせている。

取材・文/岩切 徹(編集部) 写真/和田 佳久

株式会社日本総合研究所 調査部
副主任研究員 下田 裕介氏

2005年03月 東京工業大学大学院修了。同年04月(株)三井住友銀行に入行。06年04月(社)日本経済研究センターへ出向、内外経済予測に従事。08年04月(株)日本総合研究所調査部マクロ経済研究センター、現在に至る。

急速な需要拡大を見せる日本のインバウンド市場

──日本におけるインバウンドの現状について教えてください。

 わが国を訪れる外国人(訪日外客)数は、2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災の影響を受けて一時的に大幅な落ち込みがみられましたが、総じて増加基調にあります。2013年には初めて1000万人を突破し、2014年は1341万人となりました。また、2014年の訪日客による消費総額は2兆円を突破するなど、インバウンド消費が日本経済へ与える影響も拡大しています。

──増加している背景に、どのような要因があるのでしょうか。

 背景としては、次の3点が挙げられます。

 第一に「アベノミクス始動を受けて進んだ円安」です。安倍政権による経済政策、いわゆるアベノミクスの始動を受けて、主要国・地域の通貨に対して、円は2012年前後を境に大幅に下落してきました。円安・海外通貨高は、外国人にとってわが国への旅行費の割安感や円ベースでの購買力上昇につながり、訪日需要の拡大に作用しています。

 第二に、中国や東南アジア諸国といった新興国における所得水準の上昇が挙げられます。これらの国々では、一人当たりGDPが増加基調にあります。これに伴い、海外旅行を志向する中高所得層が増加しており、自国と地理的・文化的に近い日本を訪れるアジアからの客数は高い伸びを見せています。

 第三は政策面による押し上げです。政府は2013年7月にビザ発給要件を緩和し、対象となった東南アジア諸国からの訪日客数は、前年比30~80%増と大幅な増加を見せています。また、アジアを中心にLCC(格安航空会社)国際線の就航便数が増加して、安価で訪日できる環境が整備されるとともに、国内空港の機能を強化したことも、訪日需要を下支えしているといえます。

長期的に総じて拡大基調だが、中国やギリシャによる影響も

──中国経済の減速やギリシャ危機など、世界経済に大きな影響を与えかねない事態が起きた場合、日本のインバウンドへの影響はあると思いますか。

 個人的には、一時的にはその影響は少なからずあると思います。2014年の訪日外客数を国・地域別でみると、中国(18%)、韓国(20%)、台湾(21・1%)、香港(6・9%)、ASEAN(11・9%)と、その8割がアジアで占められています。ですから、中国経済の減速感がさらに強まることになれば、中国からの訪日客数は減少する可能性があります。また、一人当たりの消費額が他国に比べて大幅に高いので、その影響は大きいと思います。

 とはいえ、先に挙げた3つの要因の先行きについて現在と同じ傾向が続くとみています。円安が一層進むとは言えませんが、今後急に円高に戻ることも考えづらいので、現在の水準が継続するとみています。一方で海外の景気に目を向けると、アジアを中心とした新興国の経済成長もスローダウンする可能性はありますが、世界経済全体で見れば底堅い成長が続くとみています。政府の後押しも続くので、訪日外客数は今後も増加基調であることに変わりはないでしょう。

都市部と地方のばらつきや供給面での制約が課題に!

──訪日需要が今後も拡大すると見込まれるなか、課題はありますか。

 第一に、インバウンド消費の恩恵における都市部と地方の間でのバラツキが挙げられます。訪日客の消費総額を訪れた地域別にみると、関東や近畿など都市部に集中しており、地方を訪れる外国人客の少なさが消費総額の伸び悩みをもたらしている状況にあります。

 第二に、期待されるインバウンド需要の高まりに対して、供給面での制約が生じる懸念があります。まず、宿泊施設の客室稼働率は、東京や大阪など都市部で高水準となっているほか、地方においても足許で総じて上昇しています。今後も訪日客の増加に伴い、客室稼働率の上昇が続けば、ひっ迫感の強い都市部を中心に宿泊客の受け入れが困難となる可能性が出てきます。次に、渡航費用が安価なLCCの需要が高まる状況下、LCCを含む大手2社以外の航空会社では、60歳以上の操縦士比率が足許で約20%と相対的に高く、徐々に退職していくとみられることから、人材面で供給不足が顕在化する可能性もあります。実際、2014年には国内LCC各社で操縦士不足に起因する欠航や就航日延期が発生しており、事態が深刻化する恐れもあります。短期的には、外国人操縦士の雇用拡大などにより、弾力的に対応可能な措置が不可欠です。

──国際的にみて、日本の観光立国はどの程度なのでしょうか。

 足許で訪日外客数が大きく増加しているものの、首都圏から海外への航空機の就航都市数が世界主要都市に比べて少ないなど、遅れをとっています。また、フランス(1位)、米国(2位)などの観光大国に比べ、その規模は依然として限定的です。政策による押し上げ効果が足許で着実に表れているなか、今後も海外向け広報活動や規制緩和などに持続的に取り組み、観光立国に向けた歩みを進める必要があるでしょう。
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