手頃なクルーズ旅行を提供し、国内市場の開拓に挑む――株式会社ベストワンドットコム 代表取締役社長 澤田 秀太
株式会社ベストワンドットコム
証券コード 6577/東証マザーズ
代表取締役社長 澤田 秀太
Hidetaka Sawada
日本では富裕層向けの印象が強いクルーズ旅行だが、欧米を中心に海外では一般にも浸透しているという。クルーズ旅行に的を絞ったビジネスを展開し、着実に売上を伸ばしてきたベストワンドットコムの澤田秀太社長に、強みと今後の戦略について聞いた。
取材・文/大西 洋平 写真撮影/和田 佳久
クルーズ旅行専門で販売もネットに特化
―― 御社のビジネスモデルは、他の旅行会社とはどこが違うのでしょうか?
澤田 当社グループの大きな特徴は、クルーズ旅行専門であることと、オンライン販売に特化していることにあります。3つの運営サイトのうち、まず「ベストワンクルーズ」ではクルーズ乗船券とパッケージツアーのオンライン検索・予約が可能となっています。乗船券や自社企画商品に加えて、提携旅⾏会社のツアーも予約でき、総取り扱い数は1万7千コース以上に達しています。
ハネムーンクルーズの専門サイト「フネムーン」では、ベストワンクルーズとは異なるマーケティングを展開し、新婚旅行を検討しているお客様へアプローチを行っています。さらに、当社の子会社が運営する「ファイブスタークルーズ」は高級船、カジュアル船のスイートに特化したラインアップを、富裕層やシニア層向けに展開しています。
―― クルーズ旅行に特化している理由を教えてください。船旅にはどのような魅力がありますか?
澤田 日本のクルーズ旅行者数は2016年に過去最多の24.8万人に達しましたが、それでも人口全体のわずか0.2%にすぎません。ところが、グローバルでは約2,500万人規模の巨大な市場となっており、幅広い世代、所得層の人々がクルーズ旅行を楽しんでいます。日本ではごく一部の富裕層や資金・時間に余裕のあるシニア層のための“特別な旅行”だという先入観で捉えられがちですが、世界的には現役世代にも楽しめる、気軽な選択肢として普及しているのです。
クルーズ旅行は移動に疲れることなく目的地に到着できますから、まず何よりも快適です。しかも、一度の旅行で様々な観光地に寄港し、豊富な体験を味わえます。船中でも食事や様々なイベントを楽しめ、優雅に充実したひとときを過ごせるのです。私自身もこれまでに何度も楽しんできましたし、クルーズという日本人にはまだ馴染みの薄い旅行の姿をいつの日か当たり前のものとしたいと思っています。そこで当社では、安価で手軽なクルーズ旅行を提供することで、日本におけるクルーズ市場の開拓に取り組んでいきたいと考えています。
競合が少ない分野で船会社とも緊密に連携
―― 御社のメインターゲットはどのような層の顧客ですか?
澤田 当社グループをご利用していただいたお客様の年齢層は、50歳以下の割合が6割以上に達しています。この割合は、国内におけるクルーズ旅行者全体では約4割にとどまっており、当社グループでは現役世代のウエイトが高くなっていることがわかるかと思います。今後もこうしたお客様の開拓を進め、さらにリピート利用していただくことで、国内における市場の拡大と当社グループの持続的な成長を実現したいと考えています。
――御社の強みを教えてください。
澤田 2005年の設立以来、クルーズ旅行専門の旅行会社として培ってきたノウハウと専門性こそ、当社の大きな強みです。クルーズ事業は船会社との連携が不可欠で、簡単に参入できません。競合が限られているため、船会社から高いマージンを得ることが可能です。
当社グループでは、船会社とのAPI(アプリにおける汎用性の高い機能の共有化)連携を強化しています。各船会社の空席状況や価格情報が当社の運営サイト上においてリアルタイムで反映されるようになっているのです。商品力においても、価格帯や期間など多様なニーズに対応でき、専門オペレーターがお客様のニーズに合った商品をご案内することで高い成約率につながっています。
また、サイトの構築やウェブマーケティングに関わる業務を内製化し、社内でノウハウを蓄積しています。それらを活用し、コストを抑えながらより確度の高いマーケティングを展開し、新規のお客様やリピーターの獲得を図っています。
サイトの多言語対応でインバウンド需要も獲得
―― 今後はどのような成長戦略を推進していく方針ですか?
澤田 商品の拡充、他社との提携、既存ビジネスの強化などに取り組み、さらなる成長をめざします。その一環として、航空券やホテル、海外旅⾏保険、現地送迎といったクルーズ以外の旅⾏商品の取り扱いを強化し、システム提携などによる販売促進も展開します。そして、ワンストップでクルーズに付帯するサービスを提供できる体制を整えます。
また、旅行会社から異業種まで含めた他社との提携も積極化します。昨年11月にはアドベンチャーと提携し、同社の航空券予約サイト「skyticket」で当社商品の掲載がスタートしています。今年5月からは、NTTドコモの「dトラベル」にも当社商品を提供しています。販売チャネルの拡充にも注力していて、近日中にスマートフォン向けアプリをリリースする予定です。
最近ではクルーズ船による外国⼈の入国者数も増えていて、インバウンド需要に応えるため、運営サイトの多言語化を予定しています。さらに、チャータークルーズや添乗員同⾏ツアーなど、商品⼒の強化にも取り組んでいきます。
―― 株主還元については、どのように考えていますか?
澤田 もちろん上場企業にとって非常に重要な課題だと認識しております。そこで、今年5月に開催した取締役会におきまして株主優待制度の新設を決定いたしました。株主様の保有株式数に応じた株主優待割引券を進呈するというもので、当社が取り扱うクルーズ旅行商品の予約時にご利用可能です。配当につきましては、現在は先行投資の最中であり、掲げた目標に沿った成長を遂げたうえで、具体的に検討していきたいと思います。