学校教育市場に特化したICTの専業メーカーとしてオンリーワン──チエル株式会社 代表取締役社長 川居 睦
チエル株式会社
証券コード 3933/JASDAQスタンダード
代表取締役社長
川居 睦 Mutsumi Kawai
パソコンやタブレット端末、スマートフォンなどの情報端末はもとより家電に至るまで、多方面において目覚ましいピッチでICT化が進む。無論、教育の分野もその例外ではなく、いっそうの普及・活用が国策として掲げられている。創業以来、学校教育に特化したICTを手掛けてきたのがチエルである。
(取材・文/大西 洋平 写真撮影/和田 佳久)
「知」を「得る」が社名の由来
最先端ICTで教育を支援
――教育に関わるビジネスとうかがっておりますが、その概要について具体的にご説明願います。
川居 当社の前身は1997年に旺文社の100%子会社として設立されたデジタルインスティテュートで、2006年にアルプスシステムインテグレーションの教育事業部門を統合し、チエルに名称変更しました。「知」を「得る」が社名の由来で、コーポレートカラーは太陽をイメージするオレンジです。太陽の光を浴びて動植物が育つように、学校や先生を通じて子どもにすくすく成長してもらいたいという思いが込められています。
当社は学校教育市場に特化したICT(情報通信技術)の専業メーカーであり、先生が主たるお客さまです。小中学校や高校・大学にターゲットを絞り、パソコンやタブレット端末を用いた教務支援システムやデジタル化した教材などを販売しています。小中学校市場では①教材提供、②授業支援の2分野、高校・大学市場では①教材提供クラウドサービス、②講義支援、③運用管理システムの3分野の製品を提供しています。
たとえば小中学校向けの「らくらく先生スイート」では、タブレットに表示された座席表をタップするだけで出欠席を記録でき、児童・生徒の学習活動記録や評価情報を簡単に記録してサーバー上にも保存可能です。また、先生のパソコン画面をホワイトボードに表示する一方で、同じものを児童・生徒たちのタブレットにも転送。その場で個々の児童・生徒の自分なりの考え・理解を書き込ませ、先生はそれらの内容を瞬時に把握し、比較・発表できます。現行の学習指導要領の実施に伴って授業時数と学習内容が増えており、その対応が求められている先生の負担を軽減し、教える仕事を支援するためのシステムです。
一方、高校・大学向けには授業支援プラットフォームやCALL・PC教室、アクティブラーニング教室の構築、クラウド型教材配信サービスなどを展開しています。特に大学では、文部科学省が2012年に示した「大学改革実行プラン」に沿って、学生たちが主体的に学ぶアクティブラーニングの推進が求められているのが実情です。こうしたニーズにくまなく応えて、当社は様々なソリューションを提供しております。
先生とのリレーションが
よりよき製品開発に直結
――教育のICT化は国にとっても重要課題であり、競合他社も市場としての有望性に注目しているかと思われます。こうした中で、御社はどういった点で他社との差別化を図っているのでしょうか?
川居 システム構築などで大手電機メーカーと部分的に競合するところはありますが、学校教育市場に特化したICTの専業メーカーは当社以外に例を見ません。当社はこの市場に的を絞ったうえで、ハードからソフト、クラウドまで網羅的に展開しています。極めて専門性が高い市場であるうえ、特に小学校では先生の平均年齢が40代半ばであるという事情も大きく関係してきます。必ずしも機器の操作が得意な方ばかりではなく、ICT化を進める上で使いやすくて便利であることが重要となってくるのです。
いわば、家電のような感覚で手を煩わせずに操作できる上、今まで先生が手作りしていた確認テストもタブレットを通じてその場で行えるなどといった負担軽減を実感できるICT化でなければなりません。その点、たとえば当社の「らくらく先生スイート」なら、授業とは無関係なサイトを閲覧しないように、先生側の操作で児童・生徒のタブレットのネット接続やキーボード操作を一時的にできなくするなどといったことまで可能です。
こうして教育現場のニーズをきめ細かく製品開発に反映できるのは、先生とのリレーションが構築されているからこそ。約3万人の先生に当社の登録会員になってもらい、日頃のサポートや教育イベント、製品活用セミナー、ウェブサイトなどを通じて先生たちと密に接することで、より付加価値の高い製品を提供できるように努めています。こうして当社は先生とのリレーション構築に注力する一方、製品の販売については販売代理店との協業体制を採ってきました。そのほうが様々な地域の入札案件に対応でき、学校への導入支援やアフターサポートも円滑に進められるからです。
今後は小中学校市場の
いっそうの拡大を期待
――今後についてはどういった成長戦略を掲げていますか?
川居 2012年3月期以降、売上高は毎年拡大を遂げてきました。ここ数年、システム導入に向けた実証研究をはじめとする先行投資を続けてきたこともあって、一時的に経常利益率が低下する局面があったものの、10%以上の水準は保っています。受注額に占める市場別の比率は、小中学校の23%に対し、高校・大学が72%です。当社製品の導入実績は大学で5割超、高校で2割5分に達しています。小中学校は3割程度ですが、今後はこちらの市場の拡大が見込まれています。政府が小中学校に1人1台のタブレットを導入する目標を打ち出しており、成長性は非常に高いと言えます。
今後につきましては、①営業戦略(営業エリア拡大・販売代理店との関係強化による受注獲得)、②システム開発戦略(市場別のニーズを反映した製品開発)、③教材開発戦略(教材提供パートナーとの協業による開発)といった3つの施策を推進することで成長をめざしてまいります。上場時に調達した資金につきましても、新製品開発やそのために不可欠となる優秀なシステムエンジニア採用に充てるつもりです。加えて、株主還元も重要な経営課題と捉えており、現状は無配ですが、今後の状況を勘案しつつ、実施を検討して参ります。